ビューティ・コラムcolumn
第123回 ニキビの発症メカニズムと治療について
ニキビは20世紀まではアクネ菌による単なる感染症と考えられていました。
そのため抗生物質の内服や抗菌剤の外用などが盛んにおこなわれてきました、僕もその一人でした。
たんなる感染症であれば、抗生物質の内服と外用でただちに治るはずですが、そうではありません。たまたまシミの患者さんでニキビがある方に、高濃度ビタミンC誘導体のクリームをシミの治療のために外用したところ、シミだけでなく、ニキビが治ったり、毛穴が閉じる患者さんが続出しました。なぜ殺菌作用のないビタミンCがニキビを治して毛穴を閉じるのだろう? また、顔の皮膚には1平方センチメートル当たり100個から100万個存在するといわれています。でもニキビのない方では、アクネ菌が存在するにもかかわらず炎症は起きていません。なぜ一部の方で炎症が起こるのでしょうか?
アクネ菌は酸素を嫌う嫌気性細菌で酸素の乏しい(全くないわけではありません)毛穴に住みプロピオン酸や乳酸などの脂肪酸を産生して皮膚を弱酸性に保ち、化膿性の黄色ブドウ球菌などの増殖を防ぎます。また皮脂のトリグリセリドを分解してグリセリン(グリセロールとも言います)を生じて、皮膚に潤いを与えます。このようにアクネ菌は人に黄色ブドウ球菌などによる感染症のない、潤いのある肌を提供します。一方、人はアクネ菌に餌となる皮脂を与えます。アクネ菌にとっては酸素の乏しい毛穴に住んでいれば常に皮脂という餌にありつけるわけです。ヒトとアクネ菌の関係はイソギンチャクとクマノミのような共生関係にあるのです。ところが、不適切な洗顔やストレスにより毛穴が閉塞すると、毛穴の中に酸素が全く入りこまない嫌気性環境となり、アクネ菌はキャンプファクターという毒素を産生して、毛穴や免疫担当細胞に穴をあけて、生息範囲を広げようとします。この時初めて人はアクネ菌を排除すべき異物と認識して免疫反応を起こし、毛穴は赤く盛り上がるニキビが発症するのです。
ニキビの発症条件は4つあるといわれています。
ニキビの治療は上の4つの現象(毛穴出口閉塞、炎症、アクネ菌によるキャンプファクター産生、皮脂分泌増加)をすべて解消することが理想です。
ところが保険適応のニキビの治療薬では、抗菌作用を発揮するものとしてダラシンジェルやゼビアックスローションなどがありますが、この外用剤は殺菌以外の作用はありません。過酸化ベンゾイルという活性酸素によりアクネ菌を殺菌するのがぺピオジェルです。活性酸素がアクネ菌だけでなく皮膚にダメージを与えてバリア機能が低下しますので、バリア機能の低下した進行したニキビには使用できませんし、時にひりつきを生じます。ビタミンA製剤として皮脂分泌を抑制して、毛穴の出口の閉塞を改善するディフェリンゲルがありますが、皮膚が乾燥するのでヒルロイドローションなどの保湿剤が必要です。ぺピオゲルとディフェリンゲルの両方の成分を含むものとしてデュアックがあります。
このように保険適応の外用剤はいろいろな作用を発揮しますが、ニキビ治療で一番大切な炎症を抑制する保険適応の外用剤はありません。
青山ヒフ科クリニックではニキビ治療としてビタミンABCやグルタチオン、カフェイン、トラネキサム酸などを使用します。
これらの外用剤は、ストレスの際に増加して皮脂分泌を増加させる男性ホルモンを低下させる作用、餌になる皮脂が低下するのでアクネ菌を低下させる作用、毛穴の閉塞を改善してキャンプファクターという毒素の産生を抑制する作用、そして何より炎症を強力に抑えるという作用を発揮します。
すなわち青山ヒフ科クリニックで使用している成分はニキビ発症に必要な4つの現象すべてに効果を発揮して、総合的にニキビの軽快、治癒を誘導するのです。
そしてアクネ菌に対して好中球やマクロファージなどの免疫担当細胞などが接触すると、活性酸素を産生して、体内に信号伝達に使用されるだけでなく、アクネ菌を破壊変性させるために、あるいはほかの細胞を活性化するために細胞外に放出されます。
細胞内に放出された活性酸素はシグナル伝達を行いNF-kBなどの炎症を起こす転写因子を活性化してIL1βなどの炎症性サイトカインや蛋白分解酵素の産生を増加させるだけでなく、免疫担当細胞を活性化、血管拡張、血管透過性の低下を引き起こします。血管透過性の低下が高いレベルになるとニキビだけでなく皮膚全体が赤くなる赤ら顔になります。
放出させた活性酸素は周囲の炎症性細胞を活性化して炎症を激しくします。これらの細胞も蛋白分解酵素などを放出します。皮脂腺細胞は蛋白分解酵素の受容体PAR2やアクネ菌のセンサーであるTLR2,あるいはストレスで増加するCRHというホルモンの受容体を持っています。これらの受容体やセンサーはニキビの発症と同時に活性化して皮脂分泌を亢進します。
その結果さらに大量の活性酸素が放出され、炎症が激しくなるという、ニキビ増悪の悪循環ループが始まってしまうのです。この悪循環を抑えるには炎症のトリガーである活性酸素を消去することが大切です。これが、ニキビが感染症だけでなく活性酸素病といわれるゆえんです。
青山ヒフ科クリニックで使用するビタミンABC、グルタチオン、カフェインは活性酸素を消去するだけでなく、活性酸素を消去するだけでなくサイトカインの産生を抑えて炎症を抑制するNrf2という転写因子を活性化して、効率的に炎症を抑えます。Nrf2にはミトコンドリアを活性化して代謝を上げるというアンチエイジング作用もあります。
これらの外用剤は、ニキビだけでなく、毛穴の開き、赤ら顔、しわやたるみにも効果を発揮します。これらの成分をイオン導入やノンニードル導入で大量に浸透させることも可能です。今お使いの保険適応の外用剤と組み合わせて使用することも可能です。そしてケミカルピーリングは閉塞した毛穴を開放して皮脂の排出をスムーズにする作用だけでなく炎症を抑える作用を発揮します。ニキビの後のクレーターに効果を発揮するパールというフラクショナルタイプのレーザーもあります。ビタミンCだけでなくビタミンABCやグルタチオンやトラネキサム酸を一緒に導入することも可能です。皮脂分泌を抑制して毛穴を縮小するジェネシスやグリーンジェネシスとの併用も可能です。保険適応の治療のみから開始することももちろん可能です。まずはスキンケアから開始して、効果はない場合はイオン導入、レーザーなどで徹底的にニキビを治します。
ビタミンCローション、ビタミンCクリーム(ビタミンC配合)
毛穴レスローション(ビタミンC、ビタミンB群、甘草エキス、各種植物エキス配合)
毛穴レス美白ローション(上記にグルタチオン配合)
毛穴引き締めエッセンス(カフェイン、トラネキサム酸、アミノ酸、ポリフェノール配合)
▶内服(スピノロラクトン以外は症状により保険適用です)
ビタミンC、ビタミンB群、ハイチオール(アミノ酸)、抗生物質、漢方薬
ビタミンCイオン導入、そのほかビタミンABC、グルタチオン、トラネキサム酸
カフェインなどのイオン導入やノンニードル導入
アンチアクネ注射、抗菌注射