ビューティ・コラムcolumn

第105回 ビタミンB3は皮脂分泌を抑制して炎症を抑え、アンチエイジングを実現します

青山ヒフ科クリニックでは、ビタミンA、ビタミンB群、そしてビタミンCを単独で使用するよりも一緒に使用した方がより強力な代謝促進作用と皮脂分泌作用を実現するのではと考え、様々な濃度のビタミンの組み合わせを試してきました。その結果、ビタミンAやビタミンB群はビタミンCの作用を増強することが明らかになりました。ビタミンB群、特にビタミンB3は脂質、糖質そしてアミノ酸のエネルギー代謝で重要な枠割を果たします。ビタミンB3は構造の一部がOHであるものがニコチン酸、一部がアミノ基であるものがニコチン酸アミドと呼ばれますが、ともにビタミンB3としての作用を発揮します。ビタミンB3を摂取すると、ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(NAMPT)などの酵素の作用により細胞質でニコチンアミドアデニンヂヌクレオチド(NAD+)となります。さらに下の図に示すように細胞の発電機であるミトコンドリアの中でも炭水化物が分解して生じたピルビン酸や脂質が分解して生じた脂肪酸やアミノ酸はTCA回路で代謝されNADHを産生します。NADHはミトコンドリアの電子伝達系に電子を与えてNAD+に変換します。すなわちNADHやNAD+は高エネルギー物質であるATPを作るためになくてはならない中間代謝産物なのです。細胞質とミトコンドリアのNAD+は相互に行き来をします。細胞内を還元側に持っていくために必要なグルコース6リン酸脱水素酵素の補酵素としてもビタミンB3の誘導体であるNADPHは必要です。要するにB3は、糖質、脂質、アミノ酸の代謝を上げて、細胞内の酸化ストレスを低下させるために必須の物質なのです。

ビタミンB3とNAD+の構造を比較すると非常に興味深いことがわかります。NAD+の構造の一部はビタミンB3なのです。下の図に構造を示します。NAD+ はビタミンB3にリン酸や糖や塩基が結合したものなのです。これら3つの物質はDNAの構成単位でもありヌクレオチドと呼ばれます。

上の図にニコチン酸アミドとして記したビタミンB3はピルビン酸をクエン酸回路に取りいれたり、クエン酸回路を円滑に代謝させるためになくてはならないビタミンなのです。ビタミンB3を外用すると、ATPの産生が飛躍的に増加して、代謝の盛んな美しい肌が実現します。ビタミンB3には代謝を上げる以外にもう一つ大事な側面があります。それは若返り遺伝子サーチュイン(SIRT)やDNA修復遺伝子であるポリ(ADPリボース)合成酵素(PARP1)が働くためになくてはならない基質であるということです。ヒトは生存している間に、DNAにダメージが生じます。皮膚では紫外線により生じたDNAダメージを素早く修復しています。この反応は全身で常に行われていて、DNAダメージによる癌の発生を予防しているのです。ビタミンB3はDNAダメージによる発がんを防ぐためになくてはならないものなのです。

上の図はDNA修復酵素PARP1がNAD+を利用してDNAを修復している様子を模式化したものです。PARP1がNAD+の中のDNAの構成単位であるヌクレオチドすなわちリン酸+糖+塩基をDNAに張り付けてDNAを修復しています。生物が生じるDNAのエラーは、ビタミンB3がないと修復することができないのです。ビタミンB3は全身の発がんの防止や、皮膚では紫外線による光老化を抑制する作用を持っています。

生物は若い時には代謝が盛んで加齢により少しずつ代謝が低下します。老化現象を食い止めるには代謝を上げて、代謝の際に生じる活性酸素を消去することが大切です。最近低下した代謝を若い時のように亢進させるサーチュインという遺伝子があることが発見されました。代謝を上げて活性酸素を消去して全身の細胞を生き生きとさせる作用をサーチュイン遺伝子は持っています。このサーチュイン遺伝子が作用を発揮するためにはビタミンB3が必須なのです。サーチュイン遺伝子はAMPKというリン酸化酵素を活性化します。そして活性化したAMPKはPGC-1αという転写補因子をリン酸化して活性化しミトコンドリアを活性化します。サーチュイン遺伝子はPGC-1αを脱アセチル化してさらにミトコンドリアの代謝を増強します。ミトコンドリアの活性化により、全身の細胞の代謝の亢進と活性酸素の消去能が亢進して、若い時のような代謝状態が出現してアンチエイジングが実現します。具体的には、脳神経活性化、筋力増強、キメの細かい肌が実現します。そして老化を促進する炎症反応は抑制されます。サーチュイン遺伝子が活性化することにより細胞のミトコンドリアの数が増え、一つ一つのミトコンドリアにおけるATP産生は増加します。

さらにミトコンドリアに存在するSODなどの活性酸素を消去する酵素の活性が増加します。すなわちビタミンB3は細胞の代謝を上げて活性酸素を消去する作用を全身や皮膚で発揮するのです。この作用はビタミンCとまったく同様ですね。ビタミンCは活性酸素を消去して酸化型のビタミンCとなります。グルタチオンというトリペプチドは酸化したグルタチオンを還元します。そして酸化したグルタチオンを還元するのは、ビタミンB3依存性の酵素であるグルタチオン還元酵素です。すなわちビタミンB3はビタミンCと協力して代謝を上げて活性酸素を消去するだけでなく、抗酸化剤の連鎖反応の最後を締めくくり、体内を還元側に持っていくのです。

上の図に示すように、AMPKはアセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC)という脂肪酸合成酵素の活性を抑制して、皮脂分泌を抑制して引き締まった毛穴を実現するのです。ビタミンB3のスキンケアにより代謝の盛んな肌と引き締まった毛穴が実現するわけです。ビタミンB3のスキンケアや摂取は腹8分の食事と運動をした場合と同じ効果を皮膚や全身に及ぼします。すなわち、ビタミンB3を摂取してスキンケアをしながら、腹8分の食事と運動をすると、さらに強力なアンチエイジング作用が発揮されるのです。食事は必要カロリーの7から8割をしっかりとるようにしてください。タンパク質を摂取しないと細胞の増殖やコラーゲン、ミトコンドリアの合成が起こらなくなります。運動が嫌いな方、時間がない方はビタミンB3の摂取は、ぜひするようにしてください。上の図に示すようにビタミンB3の内服は運動したのと同じ効果をもたらします。

最近、加齢に伴いNAD+合成酵素であるNAMPTの活性が加齢と共に低下することが報告されました。各年齢のNADの量などを、骨盤部位の紫外線にあたらない皮膚を多数の方より採取して測定したところ、0から1歳では8.54 30から50歳で2.74 50から70歳で1.08ng/ mg proteinという結果が出ました。皮膚のNADの量は加齢とともに出生時の約8分の1と大幅に低下するのです。おそらく全身のNADも皮膚と同様に低下するのでしょう。加齢と共にNADの濃度が急激に低下する点は徐々に低下するビタミンCと違う点です。生まれた直後のNADの量が30歳から50歳で半分以下、50歳以上では8分の1まで低下してしまうのです。なぜNAD+が加齢とともに急激に減少するのかはまだ分かっていません。原因の一つのとして、PARP1というDNA修復酵素が、紫外線の蓄積作用により増加した皮膚のDNAのダメージを修復するために、皮膚 のNAD+を過剰に消費している可能性もあります。上の図ではDNAダメージとPARP1の活性は加齢とともに増加しています。その結果、NAD+を必要とするサーチュイン(SIRT)の活性化が低下したのでしょう。

生物の優先順位としては、DNAを修復することが、代謝を上げることよりも優先されます。低下したNADを 補うためにビタミンB3をスキンケアしたり経口摂取をすると、皮膚や全身の代謝が飛躍的に増加します。マウスやヒトでビタミンB3やビタミンB3の代謝産物を摂取することによりアンチエイジング作用を発揮することは報告されています。僕自身ビタミンB3の内服をしてから、体温が増加した(ジムのトレーナーにも指摘されました)、筋力が増加した、朝から晩まで仕事をしていても疲れにくくなり、集中力が増加したことを感じます。これは全身の細胞の代謝が亢進したためです。完璧なアンチエイジングには質の高い眠りは不可欠です。ビタミンB3はサーチュイン遺伝子を活性化して代謝を促進しますが、サーチュイン遺伝子は概日リズムを制御しています。

たとえば朝はステロイドホルモンのレベルが上がり、夜は低下する。逆に成長ホルモンは夜増加します。このように1日にメリハリをつける代謝やホルモンを制御して1日ごとのリズムを作っています。夜遅くまで緊張して、仕事をしていてもベッドに入ると、あっという間に深い眠りにつけるようになります。そしてビタミンABCをスキンケアするだけでなく、皮膚にイオン導入や電気穿孔導入をすると、顔が引きしまり、目じりのシワが低下しました。

上の左は集中毛穴レスコース前です。ビタミンCとビタミンB3を含むビタミンB群をイオン導入と電子穿孔で導入すると毛穴は閉じ、目尻のしわが大幅に低下しました(写真、中央)。左の写真のわずか1時間後が中央の写真です。たった1回のトリートメントで目尻のシワがほとんどなくなり、毛穴が閉じるとは、僕にはとても驚きでした。その数週間後にビタミンAのイオン導入と電子穿孔を、ビタミンB群とCと一緒に行うビタミンABCの導入をするとさらに顔は引きしまり、皮膚が白くなり、毛穴はさらに閉じました。青山ヒフ科クリニックでは通常のビタミンCの導入だけで満足する結果が得られない、ニキビや赤ら顔あるいは毛穴の開きやタルミなどが気になる方にABC毛穴レスコースやABCアンチアクネコースをお勧めしております。こんなに効果があるとは思わなかったと喜びの声をいただいています。

上の方はビタミンABCのイオン導入を2か月で2回行いました。日々のビタミンA、ビタミンB群、そしてビタミンC によるスキンケアもおこないました。2か月でニキビはほぼ消失して毛穴も縮小しています。ビタミンB3の皮膚に対する作用として皮脂分泌抑制以外に、コラーゲン合成促進、美白作用なども報告されています。酸化したビタミンCを還元するグルタチオン還元酵素の活性を増強してビタミンCの作用を増強することも報告されています。

上にビタミンB3の皮膚に対する作用を示します。

上は赤ら顔とニキビを合併した第2度の酒さの方です。蛋白分解酵素とビタミンABCを導入する赤ら顔スペシャルコースを行った後に、ジェネシスを照射してABC毛穴レスコースを1回行いました。ABC毛穴レスコースはビタミンABCを電子穿孔法で注入した後に、イオン導入でさらにビタミンABCを皮膚に浸透させるトリートメントです。赤味は大幅に低下し、毛穴が縮小しています。法令線が深くなったのは、酒さによるむくみがなくなったためです。ビタミンB3をはじめとするビタミンB群、ビタミンCそしてビタミンAのコンビネイショントリートメントは代謝の盛んな皮膚と引き締まった毛穴を実現するだけでなく、ニキビ、脂漏性皮膚炎、酒さなどの炎症性疾患やシミ、しわなどにも作用して、若々しい透明感のある肌を高いレベルで実現します。

美容のビタミンとしては、地味な存在であったビタミンB3は、今後ビタミンCと並んで、アンチエイジングビタミンのひとつとしてスポットライトを浴びる可能性が非常に強いと僕は確信しています。ビタミンABCをスキンケアで皮膚に入れるには、ビタミンAを配合したリフティングエッセンス、ビタミンB群とビタミンCを配合した毛穴レスローション、ビタミンCを配合したCクリーム、VCローション、アンチアクネローションなどがあります。

ビタミンABCをイオン導入するコースとしてはABCアンチアクネコース、ビタミンABCをイオン導入と電子穿孔法の二つで徹底的に皮膚に浸透させるABCアンチアクネコースがあります。ABCアンチアクネコースはニキビにも高い効果を発揮します。 ビタミンCの外用やイオン導入で十分な効果を発揮しない方にも、ビタミンABCを一緒に導入することにより、より優れた、毛穴縮小効果、美白効果、抗炎症効果を発揮します。