ビューティ・コラムcolumn

第89回 ニキビ・赤ら顔についての徹底解説

ニキビ、赤ら顔がどうして生じるのか、研究論文や僕の治療経験よりいろいろな事実が判明して来ました。

ニキビの原因と治療について解説します。

アクネ菌は太古の昔から、毛穴に存在して皮膚に潤いを与えるグリセロールを産生して、毛穴に潤いをあたえてきました。また遊離脂肪酸を産生して毛穴を弱酸性に保ってきました。人にとっては病原性を持つ細菌の増殖を防ぐ、共生菌なのです。ストレスや体内のホルモンバランスの変化で男性ホルモンが増えると、皮脂の分泌は増加します。生理前にも黄体ホルモンという男性ホルモン作用をもつホルモンが増加して皮脂分泌は増加します。その結果、皮脂を餌とするアクネ菌は増加します。増加したアクネ菌は蛋白分解酵素を産生して、我々にダメージを与えます。それに対して、アクネ菌を減らそう、あるいは一掃しようとして免疫反応が起こります。アクネ菌がどれほど増えたら免疫反応が起こるのか、まだわかっていません。アクネ菌がいなくなっても免疫の過剰反応はしばしば継続します。

これがニキビは感染症ではないといわれるゆえんです。感染症であれば、病変から菌がいなくなった時点で治癒です。免疫過剰反応は、表皮細胞、皮脂腺細胞、そして肥満細胞などの免疫担当細胞が起こします。この時、活性酸素、サイトカイン、そして蛋白分解酵素が生じます。過剰な活性酸素やサイトカインを消去するだけでなく、蛋白分解酵素が結合する受容体(PAR-2)を抑制するのがビタミンCです。そして蛋白分解酵素に結合して活性を失わせるのが蛋白分解酵素抑制因子です。免疫の過剰反応を抑えるにはビタミンCと蛋白分解酵素抑制因子、そして後述する植物エキス、この3つを併用するのがポイントです。アクネ菌に対する免疫反応が毛穴だけにおこるとニキビ、皮膚全体におこると赤ら顔になります。

上図は免疫反応のイメージです。

アクネ菌が放出する蛋白分解酵素に最初に反応するのは表皮細胞、あるいは毛穴の細胞です。アクネ菌が産生した蛋白分解酵素はPAR-2という自然免疫受容体で、アクネ菌本体をトール様受容体(Toll Like Receptor、TLR)という自然免疫受容体で認識します。TLRとPARは協調して免疫反応を起こします。免疫反応は肥満細胞に引き継がれます。細胞が免疫反応を起こすのにはNF-kBという転写因子が活性化することが必要です。転写因子とは遺伝子に書き込まれた情報を、蛋白合成をしてサイトカインなどの発現として実現させる因子のことです。ビタミンCはいろいろな細胞のNF-kBの活性化を抑制し免疫反応を抑えます。アーティチョークという植物エキスもNF-kBの活性化を抑制します。赤い文字で書いたのは免疫反応を抑える植物エキスです。

酒さの発症には肥満細胞が必要であるということが論文で発表されました。ニキビや酒さの際に免疫反応を最初に起こすのはアクネ菌を含む皮脂に隣接する表皮角化細胞です。表皮細胞はPAR-2と TLRを持っています。PAR-2には蛋白分解酵素が結合してこれを活性化します。PARとは protease-activated receptor-2 蛋白分解酵素活性化受容体protease-activated receptorの略です。TLRは蛋白分解酵素を介さずに自然免疫を発動します。次に僕はPAR-2という蛋白分解酵素活性化受容体がどこに存在するか調べてみました。その結果、なんと血管内皮細胞に存在することがわかりました。肥満細胞がトリプターゼ(tryptase)という蛋白分解酵素を活性化して放出することもわかりました。

これまでのことをまとめてみましょう。

アクネ菌をやっつけるために肥満細胞がトリプターゼ という蛋白分解酵素を放出して、血管内皮細胞のPAR-2に結合して、血管を拡張する可能性があることが判明したのです。 この時僕は赤ら顔の原因が判明したと直感しました。赤ら顔(酒さ、脂漏性皮膚炎)の原因は血管拡張ですが、なぜ血管が開くのかわからなかったのです。 下の図は肥満細胞による免疫反応のイメージです。

アクネ菌そのものをTLR2,4、あるいはアクネ菌の放出する蛋白分解酵素をPAR-2で認識した肥満細胞は、トリプターゼという蛋白分解酵素を放出します。この酵素は血管内皮細胞のPAR-2に結合して内皮細胞を活性化します。その結果血管は拡張して、内皮細胞同士の隙間が拡張します。拡張した隙間を肥満細胞、リンパ球、単球などの免疫担当細胞が血管から皮膚に移動して、蛋白分解酵素やサイトカイン、活性酸素を放出してアクネ菌を一掃しようと炎症を起こします。蛋白分解酵素はアクネ菌をやっつけるためだけでなく、炎症性細胞が血管から毛穴や皮膚のそばに移動するのに必要です。蛋白分解酵素により真皮のコラーゲンなどが破壊されれば、炎症性細胞は破壊されたコラーゲンによって生じた隙間を遊走してアクネ菌に近ずくことができるようになるのです。肥満細胞が放出した蛋白分解酵素は肥満細胞のPAR-2に結合して、さらなるトリプターゼの放出やブラジキニン、ヒスタミンなどの放出を招き炎症はどんどん激しくなるのです。ブラジキニンは血管を拡張させて、血管成分を血管外に漏出させて、むくみを起こします。痛みも引き起こします。激しいストレスで肥満細胞からトリプターゼやブラジキニンなどが直接放出されることも明らかになりました。ストレスで一気に顔が赤くなる原因です。ニキビ、赤ら顔の治療のターゲットは肥満細胞であるということがわかりました。トリプターゼは肥満細胞が放出する蛋白分解酵素です。トリプターゼの活性を抑制する物質を探しました。残念ながら皮膚科領域でトリプターゼの活性を抑制する因子は見つかりませんでした。僕は内科領域で慢性膵炎の治療に使用されているトリプシン抑制因子に注目しました。トリプシンはトリプターゼと非常に構造が似ており、ともにPAR-2に結合する可能性があります。トリプシン抑制因子を赤ら顔の治療に使用すれば、トリプシン抑制因子がトリプターゼに結合して、血管内皮細胞に存在するPAR-2への結合を防ぐ可能性があります。その結果、血管拡張もなくなるはずです。トリプシン抑制因子は内科領域で、点滴で長い間使用されて、安全性が確立されているものです。モニターの患者様にイオン導入してみました。この方はニキビとひりつきを伴う赤ら顔(酒さ)を合併した方です。皮膚科的診断では第?度の酒さといいます。

[酒さ/第?度]

[左図:治療前|右図:初診2日目/ニキビ赤ら顔コース1回導入]

初診2日後に蛋白分解酵素抑制因子導入した後にサイトカイン、活性酸素を消去するためにビタミンCやコンフリーBなどの植物エキスも導入しました。たった1回の導入後に赤みがほとんど消失していたのにはびっくりしました。導入後にはずっと継続していたひりつきもなくなりました。

次の患者様は冷たい水で洗顔しても顔がぴりぴりする、寒いところから暖かいところに移動すると顔が火照るそうです。肌の痛みはブラジキニンや神経細胞のTRPV1というセンサーの活性化によるものです。

[酒さ/第?度]

[左図:治療前|右図:ビタミンCイオン導入1回目]

 

[酒さ/第?度(同患者様)]

[左図:治療前|右図:ニキビ赤ら顔スペシャルコース1回導入]

こちらの方も皮膚科的診断は第?度酒さになります。第?度酒さの定義はニキビを伴うことです。最初にビタミンCの導入を行いました。導入後赤みはある程度低下しましたが、まだかなり残っています。次にビタミンCだけでなく、蛋白分解酵素抑制因子や植物エキスを一緒に導入しました。蛋白分解酵素抑制因子とビタミンCや植物エキスを1回導入しただけで、顔の赤みがまったく消失していました。これらの患者様が1回の導入で赤みが消えているのをみて、感動で胸が熱くなりました。ある程度赤みが低下するだろうとはおもっていましたが、僕の予想をはるかに超えた効果でした。

下記の酒さ第I度の患者様は蛋白分解酵素抑制因子の導入とビタミンCに植物エキスオリゴノールを添加した導入を2回施行しました。

[酒さ/第?度]

[左図:治療前|右図:蛋白分解酵素導入VC+オリゴノール導入コース1回導入(施術日と同じ日の撮影)]

 

[酒さ/第?度]

[左図:治療前][右図:アンチアクネローション+トラネキサム酸のミックス外用5週間+蛋白分解酵素導入、VCオリゴノール導入2回目]

1回導入で赤みがほとんど消えました。その後、5週間赤ら顔ローションを外用していただきました。さらにその後2回目の導入をしたら赤みがさらに消えていました。

赤ら顔を治すのがいかに難しいか、皮膚科医、化粧品会社の方、そしてこのサイトをご覧の方なら実感していると思います。ニキビのアクネ菌に対する反応も赤ら顔と同様、アクネ菌が産生する蛋白分解酵素やアクネ菌本体を認識して開始します。免疫の過剰反応を起こさないようにするにはアクネ菌の数を減らすこと、できれば零にすることも大切です。アクネ菌がいなかった思春期前にはニキビは生じないのです。ダラシンは強力な殺菌をもち、もっぱら外用で使用されます。ダラシンの構造と皮膚への相性をしらべ、皮膚に直接注射するこが可能であることを確認しました。ダラシンは点滴や筋肉内への注射がもともと可能なのです。ニキビ局所に直接注射することにより、アクネ菌を一掃することが可能です。ビタミンCは皮脂の分泌を抑え、NF-?Bの活性化を抑制して、サイトカインや活性酸素、マトリックスメタロプロテアーゼMMPという蛋白分解酵素の発生を抑えることで強力に炎症を抑えます。MMPは血管から飛び出した炎症性細胞がアクネ菌のそばに移動するために必要とされます。

ビタミンCだけでなく、下記の植物エキスも一緒に導入します。下記の植物エキスはニキビ赤ら顔スペシャルコースで赤ら顔、ニキビの方に使用します。

<使用している有効成分>◆リコカルコンA: 殺菌作用 皮脂分泌抑制作用 活性酸素消去 リパーゼ抑制◆オリゴノール : 皮脂の酸化を防ぐ 皮膚のバリア機能修復 MMP産生抑制◆キュアベリー :IL-1 産生抑制◆バイオベネフィティ:NF-?B活性化抑制◆コンフリーB: 肥満細胞活性化抑制 蛋白分解酵素放出抑制◆イザヨイ : TLRの発現を抑制、DAMPSによる炎症抑制、自然免疫抑制

これらの植物エキスをビタミンCと一緒にイオン導入し、外用することによってより強い抗炎症作用、皮脂分泌抑制作用、血管収縮作用が発揮されます。PAR-2やTLRは感染や炎症で生じる活性酸素により、細胞の表面にたくさん出現するようになります。ビタミンCや植物エキスは活性酸素を消去して、PAR-2やTLRの発現を抑制し、炎症反応を抑えます。

[ニキビの患者様]

[左図:治療前][右図:VCプラス植物エキス導入、アンチアクネセラピー、ダラシン注射各4回、VC+植物エキス導入2回、たんぱく分解酵素導入1回]

治療4ヵ月後にはニキビはほとんど消失しています。今後はピーリングも併用して皮膚の凹凸を修正していきます。

[ニキビの患者様]

[左図:治療前][右図:ニキビ赤ら顔スペシャルコース2回、アンチアクネセラピー、ダラシン注射各6回]

こちらの方は、一刻もはやくニキビを治したいという希望があり初診時に顔全体にアンチアクネメソセラピーを行いました。その後ダラシン注射も繰り返し行うだけでなく、ビタミンCプラス植物エキスのイオン導入および、蛋白分解酵素抑制剤導入も行いました。ニキビが消失しただけでなく、肌質、肌色がまったく変わっています。

どうしてこんなに効くのだろうと思い、いろいろ調べてみました。

上の図に概略を示します。

PAR-2は血管内皮細胞だけでなく、表皮細胞、皮脂腺細胞、繊維芽細胞、そして免疫担当細胞に発現されています。肥満細胞より放出されたトリプターゼは血管内皮細胞だけでなく、RAR-2を発現しているリンパ球、白色球などの免疫担当細胞に結合して炎症を激しくさせます。そして、皮脂腺細胞に結合して皮脂の分泌を促進する、表皮細胞の増殖を促進してコメドをつくり毛穴を詰まりやすくさせています。一方、アクネ菌に対する免疫の過剰反応は、表皮細胞のカリクレインというトリプターゼ類似の酵素の産生を増加させて、LL37という抗菌ペプチドを産生して炎症を激しくしています。そしてトリプターゼは肥満細胞自身のPAR-2に結合してさらにトリプターゼの放出を促進しています。肥満細胞はトリプターゼという酵素の放出を介して、ニキビや赤ら顔の発症に大きくかかわっていたのです。そしてトリプターゼの活性を抑制することにより、以下のことが起こります。

トリプターゼの活性を抑制するだけで、上の図の赤いバツ印で示した部分が抑制されるのです。肥満細胞の活性を抑えるものをmast cell stabilizerといいますが、今までは抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤などがmast cell stabilizerと呼ばれてきました。実際にはその抑制率はあまり高いものではありません。蛋白分解酵素抑制因子は次世代の mast cell stabilizer で抗アレルギー剤よりはるかに高い抑制率を示していることが実験であきらかになっています。ビタミンCや植物エキスは、抗酸化力を介してPAR-2の発現を抑制します。蛋白分解酵素抑制因子、ビタミンC、植物エキスを使用することがニキビ、赤ら顔の治癒への近道です。

トリプターゼ、蛋白分解酵素抑制因子、PAR-2のイメージです。

蛋白分解酵素の肌や内臓における作用を上の図に列挙しました。健康な人ではコラーゲン合成酵素の活性だけでなくコラーゲン分解酵素の活性も高い人が、肌がきれいであるといわれてきました。いわゆる代謝の盛んな肌という意味ですね。炎症の少ない正常な肌においては正解です。ニキビ、赤ら顔においてはアクネ菌に対して免疫の過剰反応がおきています。その結果、蛋白分解酵素の活性が上がりすぎてしまって、発症したと考えられます。

ハウスダストに対して免疫反応がおこるアトピー性皮膚炎でも、酒さ同様にカリクレインという蛋白分解酵素の活性が上昇しています。その結果、敏感肌になっています。ニキビ、赤ら顔、だけでなくアトピー性皮膚炎でも蛋白分解酵素の活性を抑制することで、症状が劇的によくなることが期待されます。喘息、慢性膵炎などでは蛋白分解酵素を抑制することで症状が緩和することがすでに報告されており、治療に応用されています。青山ヒフ科クリニックでは酒さの治療中に花粉症皮膚炎を併発した患者様に、ニキビ赤ら顔スペシャルコースを施行し、赤みだけでなくかゆみもなくなったことを確認しています。これは神経細胞のPAR-2を抑制したためと考えられます。

[酒さの治療中、花粉症皮膚炎併発の患者様]

[左図→右図:同日撮影、ニキビ赤ら顔コース1回施術]

花粉症皮膚炎では肥満細胞からかゆみを起こすヒスタミンや蛋白分解酵素が放出させて炎症を起こします。導入開始後すぐに痒みは収まりました。トリートメントにより肥満細胞からのヒスタミンや蛋白分解酵素の放出が抑制されたのです。ステロイド外用剤を使用せずに顔の湿疹反応を制御することがある程度可能になりました。体の中に生じる蛋白分解酵素トリプシンにより、慢性膵炎が発症することが報告されています。トリプシン抑制因子で膵炎は治療可能です。蛋白分解酵素の活性をうまく制御することが、常に皮膚や内臓で炎症が起きている我々の肌や身体をより健康な美肌に導くのです。ビタミンCは活性酸素を消去するだけでなく、各種酵素の活性を円滑にする補酵素としての作用を持っています。ビタミンCは、蛋白分解酵素が結合するPAR-2の発現や自然免疫受容体TLRの発現を抑制することも判明しています。ビタミンCや植物エキスだけでなく蛋白分解酵素抑制因子を使用すること、それが美肌を実現すると僕は確信しています。皮膚をサイエンスする、それが青山ヒフ科クリニックのコンセプトです。

そこでニキビ赤ら顔の治療用のコースとして下記のコースを新設しました。

◎赤ら顔コース:15,000円(税抜)蛋白分解酵素抑制因子をイオン導入します。

◎ニキビ赤ら顔スペシャルコース:28,000 円(税抜)蛋白分解酵素抑制因子を導入した後に、ビタミンCプラスオリゴノール、コンフリーBなど肥満細胞の活性を抑制して抗酸化作用を発揮する植物エキスを導入します。

外用剤として◎赤ら顔ローション:8,000円(税抜)蛋白分解酵素抑制因子を配合しました。

植物エキスローション:6,000円?7,000円(税抜)肥満細胞の活性化を抑制する植物エキスをふんだんに配合しました。

 

上記のコースとローションを使用することでニキビ、赤ら顔で悩むことはなくなると思います。植物エキスローションは症状に応じて高濃度7種類の植物エキスの配合を決定します。