ビューティ・コラムcolumn

第19回 ニキビ撲滅大作戦<その4> けっして、してはいけないこと

今回はニキビの治療でやってはいけないことを説明しましょう。当院では、炎症を起こしているニキビを無理につぶしたりすることは決してしません。

ニキビでは皮脂腺の周りに活性酸素をいう爆弾を持った、活性化された好中球がたくさんあります。頬骨の上にニキビがある状態を想像してください。この状態は硬いまな板の上に、柔らかいイクラを丘のように積み上げてその上にサランラップという皮膚を置いた状態に例えることができます。さてサランラップの上に両手を置いて、力をいれて押し下げましょう。何がおこるでしょうか?

イクラがつぶれて中身が飛び出すのが想像できると思います。まだ赤い炎症があるのに、ニキビをつぶして膿を絞り出すという処置はいまだに多くの施設で行われています。これはおできなどの感染症には良く行われることです。感染症のもとになる細菌を絞り出して、膿と一緒に皮膚の外に出してしまえば、痛みも腫れも引いてきます。しかしながら、このような処置をニキビですると、何が起こるでしょうか?

活性酸素という爆弾がイクラの中身のように、好中球から周囲の組織に飛び出して行きます。活性酸素は本来細菌をやっつける毒性の強いものです。これが大量に皮膚の中に飛び出せば、皮膚が極めて強いダメージを受けてしまいます。当然クレーターが生じてしまいます。膿と一緒に細菌を皮膚の外に出そうとしてニキビをつぶすのでしょうが、ニキビには細菌はほとんどいません。当院にはよその施設でニキビをつぶされてクレーターを生じてしまった患者さんがたくさん来院します。排出してもいいのは、皮脂が固まってしまい、コメドとなった状態です。もちろんコメドの周囲に炎症がないことが必要です。コメドがあるとスムーズな皮脂の排出ができません(図1)

すでに解説したようにケミカルピーリングや低出力アレキサンドライトレーザーでクレーターを治すことは可能です。しかし2週間に1回程度のピーリングやレーザー照射を根気良く半年から1年くらい継続する必要があります。もちろん徹底したビタミンCやAの外用も必要です。ここ数年で生じたクレーターなら治りますが、残念ながら10年以上前のクレーターは残ってしまう場合がほとんどです。また当院でビタミンCのイオン導入、ケミカルピーリング、徹底した日々の手入れをしても、ほとんどニキビが減らない方がいました。自宅でなにをやっているかをたずねたところ、超音波美顔器をニキビに当てて何十分も振動を与えているとのことでした。超音波美顔器は1秒間に約100万回の振動を肌に与えて活性化する作用を持っています。超音波は振動を細胞に与えることで皮膚を活性化します。すでに皮脂腺が活性化されている状態で、その周囲には活性化された好中球がたくさんあります。いったい何が起こるでしょうか?

皮脂の分泌がさらに盛んとなり、好中球からは活性酸素がどんどん放出されてしまいます。超音波のマッサージは皮膚の代謝が落ちたシワ、タルミには非常に有効です。しかしながら毛穴の開いた赤ら顔、ニキビには逆効果です。また青山ヒフ科クリニックのエステでは強い炎症を起こしているニキビにマッサージはしません。マッサージは局所の細胞を活性化させると同時に、局所にある程度の圧力をかけてしまいます。ニキビをつぶすほどではありませんが、ある程度病態を悪化させる可能性があることは容易に想像がつくと思います。活性酸素という爆弾を持った細胞が破裂して、クレーターを引き起こす可能性もあります。このような行為はニキビがなぜ起こるかを考えれば、非常に危険であることはもう理解されたことと思います。

大学生の男の患者さんで、顔からあごにかけて、ニキビだらけの患者さんが来院しました。顔中のニキビが痛いそうです。ビタミンCの外用も抗生物質の内服もしています。いったいどんな洗顔をしているのかたずねたところ、顔中のニキビを押しつぶすように強くマッサージをしながら洗顔しているとのことでした。ニキビを押しつぶそうとする心情は良く理解できますが、大変危険な行為であることを説明して納得してもらいました。洗顔はごしごしスクラブ洗顔をされる方がいますが、皮膚の表面を傷つけて逆に炎症を招く可能性があります。過剰にやりすぎないように注意が必要です。また皮脂を取るパックがありますが、あれも過剰にやりすぎると逆に皮膚に炎症を起こす可能性があります。せいぜい1週間に1度くらいにとどめてください。毎日やって、鼻を真っ赤にして来院される方もいます。先日、顔が真っ赤で激しいニキビが散在している患者さんが来院しました。ある形成外科を受診した際に、ニキビにレーザーが効くからと、波長の長い低出力レーザーの照射を受けたところ、逆にニキビが悪化したそうです。私は以前、アレキサンドライトレーザーを低出力で使用して、シワ,タルミ、そしてニキビのあとのクレーターやニキビが治ると解説しました。しかしながら盛り上がったニキビに即レーザーを照射するとニキビが平らになるとは、書かなかったはずです。私の書き方が誤解を受けるような書き方をしたのではと反省しています。

炎症を起こしている激しいニキビにレーザーを照射すると悪化する場合がほとんどです。私はニキビが激しい場合には、まずビタミンCなどの外用でニキビの赤みを抑えてから、レーザーを使用してクレーターの治療に入ります。一刻もはやくクレーターの治療を希望する患者さんには、激しい炎症を起こしているニキビは避けて、デコボコにレーザーを照射するようにしています。場合によってはニキビにテープを貼って、マスクをしてから照射を行う場合もあります。レーザーが低出力で、表皮角化細胞、コラーゲンやエラスチンを作る繊維芽細胞を活性化することは報告されています。このメカニズムはまだよくわかっていませんが、私は細胞の発電機であるミトコンドリアの活性化が重要な役割を果たしているのではと推定してます。ミトコンドリアは我々の細胞のなかにある小器官で、ここでは高エネルギー物質であるATPという物質が作られます。私たちはATPを作るためにタンパク質、炭水化物、脂肪を食事として取っているのです。低出力レーザーによるミトコンドリアの活性化は、本来なら悪い細菌をやっつけるリンパ球でも起こることが報告されています。低出力レーザーで活性化されたリンパ球を投与することで、感染症を起こした動物の死亡率が低下したという報告もあります。

さて本来悪い物質をやっつけるリンパ球の仲間である好中球がたくさんあるニキビの組織に低出力レーザーを照射したら、なにが起こるでしょうか?好中球が活性化されて、たくさんの活性酸素が放出されて、炎症が激しくなります。ごく軽い赤ら顔であれば、適切なレーザー照射でニキビができることはまずありませんが、照射エネルギーが強すぎるとニキビが生じる場合があります。紫外線もレーザーもエネルギーを持った電磁波です。紫外線が皮膚の老化を促進して、シワやタルミを促進することは良く知られています。同じ電磁波である低出力レーザーが若返り効果を持つのは、そのエネルギーと暴露時間の違いだと思います。表皮角化細胞の一部は無限の増殖能を持つ、幹細胞からなっています。ですから何回もレーザー照射をしても表皮細胞が突然反応しなくなる可能性はありません。しかしながら低出力レーザーで皮膚の炎症を増加する可能性があることは、我々医師は常に留意する必要があると思います。