ビューティ・コラムcolumn
第3回 安全なケミカルピーリングとは
1990年代に欧米で盛んとなったケミカルピーリングは、数年前より日本でも大ブームとなりました。しかしながらケミカルピーリングをすることによって逆に肌がかさかさになったり色素沈着を起こしてしまったという例が続出しました。その結果どうもケミカルピーリングは日本人にはあわないのでないかという雑誌の記事を目にします。今回は安全なケミカルピーリングについて解説します。
ピーリングとは英語の“剥ぐ”という意味を持つ“peel”を語源としています。ケミカルピーリングに使用されるのはアルファハアイドロキシ酸(AHA)です。アルファハイドロキシ酸は分子結合の1番目(アルファ基)の炭素上にOHよりなる水酸基を持つ酸です。代表的な酸としてグリコール酸はタマネギとサトウキビから、乳酸はサワーミルクから作られます。またリンゴ酸はリンゴより酒石酸はぶどうから作られます。これらの酸はすべて自然に発生する酸であり、細胞に対してはある種の栄養物となり、肌に対して比較的“やさしい”という特徴を持っています。分子量が小さく皮膚に吸収されやすい特徴を持つ、グリコール酸や乳酸がケミカルピーリングの際に使用されるようになってきました。この点が蛋白の変性作用をもつトリクロル酢酸(TCA)とは決定的に異なります。なおTCAはディープピーリングに使用されます。エジプトではクレオパトラが乳酸をたくさん含むサワーミルク風呂に入って肌を若々しく保ったと言われています。またフランスでは皮膚をなめらかにするために古くなったワインで洗顔していたと伝えられています。昔のヒトも経験的にフルーツ酸が肌にいいことを知っていたわけですね。
さてフルーツ酸にはどのような作用があるのでしょうか。フルーツ酸の作用としては
1)古くなった角層を剥がす。2)コラーゲンの合成や表皮細胞の分裂を盛んにする代謝促進。3)炎症を抑える。4)保湿。
この4つがあげられます。フルーツ酸の作用する場所と効果について図1にまとめてみました。
ニキビや赤ら顔ではしばしば皮脂の排出がうまくいかないために皮膚に炎症を起こしてしまいます。古くなった角層を剥がすことにより皮脂の排出はスムーズになります。また角層にはメラニンも含まれていますがこれを取り除くことによりくすみやシミの改善がある程度期待されます。
またコラーゲンの衰えや表皮の代謝の低下によりシワ、タルミが出現します。ですから代謝を盛んにすることによりしわ、タルミは改善し、きめの細かいみずみずしい肌が実現します。またフルーツ酸はビタミンC同様に炎症を抑えるという作用があります。ですからニキビや赤ら顔に効果があります。またフルーツ酸を長く使用していると肌の水分が増加するという報告もあります。このように様々な作用を持つフルーツ酸はまさに美容の革命児として登場したわけです。
私も数年前にフルーツ酸を用いたケミカルピーリングをスタートしました。使用したフルーツ酸はアメリカより輸入した物です。その時、自分にも使用してみましたが予想外にピリピリと刺激が強いのにびっくりしました。その濃度も10%以上の高い物しかありませんでした。またケミカルピーリング後に肌がかゆいとかきむしってしまうヒトもいました。
これではまずいということで、オリジナルのフルーツ酸の開発を開始しました。アメリカのフルーツ酸の組成を調べ、それに保湿、抵抗炎症作用を持つ様々な物質を加えました。その結果、効能、効果はあるけれども、刺激が少ないという青山ヒフ科クリニック独自のフルーツ酸が完成しました。
その濃度は1、3、5、7、10、20、30%と非常に細かく設定しました。
まず青山ヒフ科クリニックではケミカルピーリングを希望して来院した患者さんの肌質を詳しく観察します。そして肌質に合わせたフルーツ酸の濃度を決定します。時には顔全体を低濃度、シミや毛穴の開きが気になる部分では高濃度というように、部位によって濃度を変えます。その際に一週間以内に顔剃りやスクラブ洗顔などの肌にダメージを与える行為をしていないかをチェックします。これらの行為により後にケミカルピーリングを行うと通常より多くのフルーツ酸が吸収され、ヒリツキや色素沈着を起こしてしまうことがあります。また極端な敏感肌や乾燥肌のヒトではまず元の病気の治療をしてバリヤー機能を回復させてからケミカルピーリングを施行するようにしています。さらにフルーツ酸の作用時間は10分が基本ですが、敏感肌の場合は5分でスターとします。
そしてケミカルピーリングの後にはたとえ脂ぎった肌のヒトでも、保湿、抗炎症作用を持った化粧水、エッセンスを大量に使用し肌を鎮めます。なぜならピーリング後の肌は過敏になっているからです。この処理を行うことによりトリートメント後のヒリツキや色素沈着などのトラブルは激減しました。もちろんその後の紫外線対策も必要です。
さて一般的にピーリングの有効率、満足率は5割から7割くらいと言われています。青山ヒフ科クリニックでは満足率は9割を越えています。それはケミカルピーリングの前に必ずビタミンCのイオン導入をすること、そしてシミ、シワ、ニキビなどに対してビタミンA,C、などを用いた徹底した日々のお手入れをするからです。このようにして長く治療すると思わぬ効果が認められました。それはニキビの後のクレーターがなおることです。これはピーリングによって表皮細胞の分裂が盛んになった状態で、真皮の膠原繊維、弾性繊維の合成がビタミンAやCやフルーツ酸によって促進されたために、真皮成分が増加して陥凹部が満たされたためと考えられます。
図2、3はニキビの男性の治療前と1年後の写真です。顔が引き締まっただけでなく、クレーターがほぼ消失しています。現在は表皮細胞の分裂をより盛んにおこすクリスタルピーリングやディープピーリングさらにはQスイッチアレキサンドライトレーザーを用いたレーザーピーリングにてクレーターだけでなく古い傷跡も治療可能です。図4はヘルペスのためにへこみが生じてしまった女性ですが、2ヶ月に一回の計3回のディープピーリングにて半年後にはへこみがほぼ消失しています(図5)
1)肌質に合わせたケミカルピーリング2)ビタミンCのイオン導入3)徹底した日々のお手入れこの3本の柱で美しい肌が実現します。
そうです、ケミカルピーリングだけでなくケミカルピーリングを含む長期的なトリートメントがより美しい肌をもたらすのです。
結論:ケミカルピーリングは肌質に合わせて行うことが極めて大切。
ニキビ、赤ら顔くすみ、そして特にクレーターの改善に特に有効である。もちろん徹底した日々のお手入れも。レーザーピール、クリスタルピールを併称すればさらに効果的。