ビューティ・コラムcolumn

第2回 ビタミンCでニキビはなおります

私は1986年から1989年まで米国立保健衛生研究所の客員研究員としてメラニンがどのような仕組みで生産されるのかを研究しました。メラニンが増えすぎるとしみの原因になるのは皆さんご存じと思います。私はしみの治療のためにビタミンCに注目しました。私が使用しているビタミンCは天然のビタミンCとは少し構造の異なる持続活性型のビタミンCです。このビタミンCは天然のビタミンCにない極めて優れた性質があります。それは水に溶かしたり、クリームやゲルにしても全く安定しており、酸素に触れたり、紫外線を浴びても酸化しません。ところが天然のビタミンCは酸素に触れたり、紫外線にあたるとすぐに酸化してしまいます。

ですからこの話を読んでレモンをスライスして顔に乗せたり、日光にあたることは絶対にしないでください。

酸化型のビタミンCは皮膚を酸化してヒリツキ、色素沈着を起こしてしまいます。さて、以前よりビタミンCは美白作用があることは知られていましたが、私はこの持続活性型のビタミンCがメラニン産生を本当に抑えるかどうかを、培養細胞や精製したメラニンを作る酵素、チロジナーゼを用いて確認しました。次に皮膚に吸収されるかを調べました。ビタミンCに放射性同位元素をラベルしたクリームを作製し、ヒトの皮膚に塗った後に表皮、真皮の放射性同位元素の活性を測定しました。その結果ビタミンCは確かに皮膚に吸収されることが判明しました。しかしながら吸収される量はけっして高くはありませんでした。そこで吸収量を増やすために特別なキャリアー(基剤)を開発しました。さらに吸収量を増やすにはどうしたらいいのでしょうか?答えは塗る量あるいは濃度を上げることです。もちろん塗る回数を増やしても大丈夫です。そこで私は作製できる限度一杯の10%濃度のビタミンCを作製して、シミの患者さんの治療に使用しました。

皮膚の色素沈着は紫外線によるシミ以外にニキビの後にも生じます。私はニキビのあとの色素沈着にビタミンCクリームを使用しました。するとニキビの後の色素沈着が治るだけでなく、できてしまった赤いニキビもどんどん減少しました。また新しくニキビができるヒトも妙に減少したのです。全くニキビがでなくなるヒトも続出しました。ニキビはアクネ桿菌などの細菌が悪さをする感染症であると、皮膚科、化粧品業界そして世間一般では考えられてきました。どうして感染症であるニキビにビタミンCが有効なのだろう?と疑問に思いながら診療を行ってきました。もう5年以上前のことです。

その後とても重症のニキビの患者さんが来院しました。顔中ニキビだらけで正常皮膚が見えない程でした。私はすぐに入院してもらいました。ニキビがひどくなるとクレーターが多発し、夏みかんの皮のような皮膚になってしまいます。そうなっては大変ということで、悪い細菌をやっつけるために入院してもらい、抗生物質の点滴を行いました。抗生物質は外来で内服で投与するよりも、点滴のほうがはるかに確実に皮膚に到達できるのです。しかしながら全く効果はありませんでし。新しいニキビがどんどんできてしまうのです。この状態は数週間続きました。皮膚の表面の浸出液より細菌は検出できませんでした。私は皮膚の深い所に抗生物質が全く効かない細菌が存在するのではと考えました。そこで患者さんの皮膚を取って調べてみました。その結果の深い所には細菌は全くいませんでした。

興味深いことには細菌が全くいないにもかかわらず、本来悪いばい菌をやっつける白血球やリンパ球が皮脂腺の周りに大量に集まって活性酸素を放出している像が発見されました(図1)

活性酸素は我々が生きていくうえでなくてはならないものですが、多すぎますと激しい炎症を起こしてしまいます。そこで私は他のニキビの患者さんのニキビの滲出液を培養してみました。その結果ほとんどの患者さんから細菌は検出できませんでした。一部の患者さんからはわずかながら検出されましたが、とても激しい症状を説明するには不十分でした。

そこで私は“ニキビは本質的に細菌感染症ではなく活性酸素病”ではないかと推定しました。ビタミンCは活性酸素を無毒化する作用があることはよく知られています。ビタミンCが活性酸素を無毒化するからニキビが治るのではと考えました。ビタミンCクリームの濃度は10%が限界です。さらに多くのビタミンCを皮膚に吸収させるために、やはり高濃度のビタミンCのローションを作製し、クリームと併用したところ、治療効果はさらに増加しました。

私はニキビは活性酸素病であると確信しました。現在ビタミンCの吸収をさらに増加するために高濃度ビタミンCのイオン導入を私のクリニックでは行っています。また驚くべきことにビタミンCには皮脂の生産を抑える作用があります。ニキビの患者さんをビタミンCにて治療すると開いた毛穴も閉じてしまうのです。私のクリニックでは、角化を抑制し皮脂の排出をスムーズにするビタミンA(レチノール)やケミカルピーリングを併用しています。また活性酸素を内側から消去するためにSOD作用を持つ健康食品も使用します。SODとは活性酸素を消去する酵素のことです。これらの方法にてほとんどの患者さんのニキビは消えてしまいます。驚くべきことにはへこんだクレーターも半年から一年単位の長期的治療で消失してしまいます。これはビタミンA,Cやケミカルピーリングに使用するフルーツ酸が皮膚の深い所にある膠原繊維や弾性繊維の合成を盛んにしたり、表皮細胞の分裂能を盛んにするためと推定しています。ニキビの治療で一番やっかいなのは皮膚の赤み、テカリ、毛穴の開き、そしてクレーターですが、ビタミンCを中心にした治療により、すべて消失します。これらの治療を行った患者さんの写真を図2,3,に示します。

これらの方はすでに1年徹底的な治療を行っています。