第24回

老化撲滅大作戦<その5> 低出力レーザーによる皮膚の若返り療法の効果とそのメカニズムについて



以前私は低出力アレキサンドライトレーザーにてシワ、タルミだけでなくニキビの跡のクレーターが治るということを報告しました。
アレキサンドライトレーザーはメラニンに反応するレーザーです。
通常はシミの除去や脱毛レーザーとして使用されています。
ニキビのクレーターが治るメカニズムとして、皮膚の表面にあるメラニンが微妙に削られるとにより上皮化反応が起こるのではと当初推定していました。
ところがクレーターが治った後も、レーザーの照射の継続を希望する患者さんが続出しました。
それは青山ヒフ科クリニックのビタミンAやCの外用剤を塗るだけでも、肌の調子がいいけれどもレーザーの照射を受けることで、肌がプリプリしてくる、垂れなくなってくるというものでした。
レーザー照射後ただちに顔がひきしまってくるのがわかると言う方もいました。
額のシワにレーザーを照射した方では毎週レーザーを照射しました。
2回の照射でシワの程度は大幅に低下しました。
この方の場合ビタミンAやCなどの外用はまったくしませんでした。
青山ヒフ科クリニックではレーザー照射後に約30分青山ヒフ科クリニックではレーザー照射後に約30分顔を冷やして、その後メイクをしてご帰宅していただきますが、そのときにもう顔が引き締まってくる方がいます。
一度顔全体から首にかけて照射し、数時間単位で顔の撮影をしました。
照射後1時間ですでに顔があがりはじめ、照射後6時間ではその差は明らかです(図1)
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これらの写真はもちろんノーメイクです。

このように青山ヒフ科クリニックでは本来シミ用のアレキサンドライトレーザーで、顔が赤くなることなく、短時間で顔をリフトアップすることが可能なのです。
もちろん照射後に使用するのはステロイドではなく、ステロイドを含まない抵抗炎症剤です。
24時間後には照射9時間後に比べてやや頬がドロップしています。
そして1週間後にはメイクをしていますが、より一層顔が引き締まっているのがおわかりいただけると思います。
これらの効果は約4週間くらい継続します。

いったいどのようなメカニズムでこのようなことが起こるのでしょうか?

これらの効果を組織学的に検討するために、私の皮膚にレーザーを照射し、組織学的に検討しました。
その結果表皮細胞の増加とエラスチンの増加が明らかとなりました。
(図2)
エラスチンは皮膚の弾力を維持する作用を持っています。
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さて、皆さんが一番不思議に思っていることについて、解説しましょう。
それは紫外線もレーザー光線も同じ電磁波なのに、なぜ紫外線が皮膚の老化を促進して、低出力アレキサンドライトレーザーが皮膚の若返り効果を発揮するかということです。
レーザーと波長と吸収される物質あるいは物質の色には密接な関係があります。
紫外線の波長は280から400 nm(ナノメーター)、可視光線は400nmから760nmです。
そしてアレキサンドライトレーザーの波長は755nmで、一番可視光線の一番波長の長いところに位置する赤色の光です(図3)
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紫外線も可視光線もそして電波も実は、電磁波と呼ばれるものなのです。
電磁波は波長が短いほどエネルギーが高いという特徴があります。
紫外線は波長が短いために、エネルギーが非常に高く、ダイレクトに遺伝子にダメージを与えたり、活性酸素を生じて、皮膚の老化を促進します。

その結果驚くべきことがわかりました。
明らかに表皮細胞、コラーゲン、エラスチンが増加したのです。
照射1時間後にはコラーゲンが太く見えます。
これは皮膚組織の水分が一過性に増加したため(これを浮腫といいます)と推定されます。
コラーゲンの太さは照射12時間後、24時間後には照射前とおなじ程度です。
またコラーゲンやエラスチンの増加や表皮細胞の増殖は照射24時間までは明らかではありません。
照射後48時間でコラーゲンやエラスチンの増加や表紙細胞の増殖がようやく明らかとなっています。
1週間後の組織では、たった1回の照射で、ピンク色のコラーゲンが著明に増加し照射前には細く短くちぎれていたエラスチンが太く、長くなりネットワークを形成しています。
また表皮細胞の数も大幅に増加しています。

生体外で赤血球に低出力レーザーを照射してもヘモグロビンは破裂してしまい、増殖しないことがすでに報告されています。
私はヘモグロビン以外の赤茶色の物質で細胞の増殖に関係する物質があるかどうか調べてみました。
その結果ありました。ミトコンドリアの色が赤茶色なのです。
ミトコンドリアはそれぞれの細胞のなかに約2000個存在しています。
黒岩常祥氏著の“ミトコンドリアはどこからきたか生命40億年を遡る(NHKBOOKS)"の表紙には細胞質中の赤茶色のミトコンドリアが鮮やかに映し出されています。

瀬名秀秋・太田成男氏著の“ミトコンドリアと生きる(角川書店)"にもミトコンドリアの色は赤茶色であると記載されています。
以前ミトコンドリアを描いたパラサイトイブという映画のイメージではミトコンドリアは緑色でしたが実は赤茶色なのです。

さて我々になじみのないミトコンドリアですが、実は細胞の発電所といわれるほど大事な働きをしているのです。
それはアデノシン3リン酸(ATP)という高エネルギー物質を産生している細胞の発電所なのです。
ATPという高エネルギー物質の役割は3つあります。
第1はタンパク質などの化合物の合成、第2は老廃物の排出やイオンの輸送など、そして第3がカルシウムの存在下にて筋肉を収縮する作用です。
我々はこのATPという物質を作るために、タンパク質、炭水化物、そして脂肪の3大栄養素をとっているのです。
消化管で分解、吸収されたこれらの栄養物はグルコース、アミノ酸、脂肪酸となって細胞の中に取り込まれます。
これらの栄養素はグルコースの場合ピルビン酸に変換してミトコンドリアに入り、エネルギー、すなわちATPを産生します。
このときに大きな働きをするのがビタミンCです。
ビタミンCはこれらの栄養素をスムーズに細胞内やミトコンドリアに取り入れる働きをもっているのです

そしてATPを利用するにはマグネシウムが必要なのです。
そして低出力レーザーの一番の利点は化粧品と異なり、ダイレクトにミトコンドリアを活性化することが可能なことなのです。
ミトコンドリアは2重の膜からなっています。
内膜に存在する水素ポンプ(プロトンポンプ、電子伝達系あるいは呼吸鎖ともいいます)は内膜の内側から水素をくみ出し、内膜と外膜の間に蓄えます。すると内膜の内側より外側のほうが水素濃度が増加します。すると濃度の濃い外側から内側に向かって水素の流入が起こります。
このときに水素の通路となるのがATP合成酵素なのです。
水素が通過するときにATP合成酵素は回転しながらATPをどんどん合成するのです。

肝臓の細胞のミトコンドリアにレーザーを照射すると、ミトコンドリアの活性化が起こることはすでに報告されています。
いままで低出力レーザーのメカニズムは、コラーゲンの熱による破壊とされてきました。
すなわちレーザーによりコラーゲンが破壊され、その修復過程で大量のコラーゲンが作られると説明されてきました。
また血管内皮細胞という血管に存在する細胞が赤血球から熱をもらい、増殖因子を放出するのではと言われてきました。

私はこの両方とも間違いだと思います。
なぜなら私の行った実験ではコラーゲンの破壊は照射1時間後、12時間後、24時間後でも全く認められませんでした。
また2日後くらいからコラーゲンの増加が起こりましたが、それは血管を中心に起こるのではなく、真皮全体に一様に起こりました。
私は皮膚の各種細胞のミトコンドリアが活性化されたからだと考えています。
照射1時間後の血管では血管の内側に1個1個の赤血球が多数壊れることなく存在しています。
また赤血球が血管の内側の内皮細胞に接触している像はありませんでした。
いろいろな培養細胞が生体外でレーザーを照射すると、いったん破壊することなしに増殖することはすでに報告されています。
これらの異なる細胞は、みなミトコンドリアという赤茶色のマーカーを持っているから増殖するのでしょう。
そして生体外では細胞の活性化はわずか0.01J/cm2という非常に低い出力のレーザー照射で起こることが報告されています。
これがレーザーによる皮膚の若返りの一番大切な点なのです。
すなわち低出力で照射することによりコラーゲンなどのタンパク質や遺伝子を傷つけることなく、ミトコンドリアを活性化して、爆発的な表皮細胞や繊維芽細胞の増殖やコラーゲンやエラスチンの増加が起こるのでしょう。
実験では表皮細胞が増殖して表皮が厚くなり、コラーゲンやエラスチンが増加しただけでなく、真皮では繊維芽細胞と思われる細胞が増殖しています。
これまでの結果をまとめます。

図13)血管照射1時間後

ちょっと難しい話になりますが、通常コラーゲンやエラスチンなどのタンパク質は、mRNA(メッセンンジャーRNA)という遺伝子の指令を受けてtRNA(トランスファーRNA)が作られ、リボゾームという細胞内の小さな器官で合成されます。
タンパク質を作れと言う指令を受けてから、タンパク質の合成が開始するまで普通は数日かかるとされています。
違う実験でも照射後、12時間、24時間ではコラーゲンやエラスチンは増加していませんでした。
照射後2日でやっとコラーゲンやエラスチンの増加が認められました。
それではコラーゲンやエラスチンがふえていないにもかかわらず、どのようなメカニズムで照射後数時間で顔がリストアップしてくる方がいるのでしょうか?

頬のたるみはコラーゲンやエラスチンという真皮の繊維が衰えて、重力に負けて落ちてしまった状態と考えられます。
これらの繊維以外にたるみに関与している物質はあるのでしょうか?
よく考えたら、ありました。それは筋肉です。
筋肉が収縮することで頬が引き締まってくるのでしょう。
レーザーで筋肉が収縮することが本当に起こるのでしょうか?

ミトコンドリアが活性化されるとATPという高エネルギー物質が爆発的に増加することはすでに述べました。
そしてATPの作用のひとつがカルシウムの存在下で筋肉を収縮させるというものです。
本当にその様なことが起こっているのでしょうか?
もし低出力レーザーで筋肉が収縮するのであれば、dysportで麻痺した筋肉もある程度収縮させることが可能なはずです。
Dysportを筋肉ではなく皮膚に浅く注射しても、額やまぶたが重くなってしまったあるいは、笑いにくくなったという方がまれに出現します。
このような方に、ためしに低出力レーザーを照射してみました。
するとあっという間にまぶたは軽くなり、笑いにくいという症状も軽減するのです。
残念ながら筋肉の収縮作用は1日から数日しか持ちませんが、これを繰り返すうちに、dysportによる筋肉の麻痺作用は軽減していくのです。
この結果には私もびっくりしました。
以上の事実より低出力レーザーのメカニズムは2つのステップに分けられると思います。
すなわち第1ステップが照射後ただちに起こる筋肉の収縮、そして第2ステップが細胞の増殖や蛋白の合成の増加なのです。
ですから図1の方で、9時間後より24時間後のほうが頬が落ちているのは、蛋白の合成開始前に筋肉の収縮が少し低下してきたためと推測されます。
そして約2日後からコラーゲンやエラスチンの合成がどんどん起こり、1週間後では著明なリストアップが出現したのでしょう。
残念ながらこれらのメカニズムはすべて私の推測です。
しかしながら私の皮膚での結果では、生体外でミトコンドリアが低出力レーザーで活性化するという報告、そしてdysportで動かしにくくなった筋肉が低出力レーザー照射後、たった数秒で動くようになるという事実は私の推測を強力に支持しているのです。

これに対して照射12時間後ではやや太くなり、波打っている筋肉が多く見られる傾向がありました(図16)
もちろん私のこの考えはあくまでも推測です。
低出力レーザーのメカニズムには、活性酸素やいろいろなサイトカインという物質が関与していることが報告されています。
実際にはミトコンドリアが主役をなって、ほかの物質が脇役となって、皮膚の若返りを起こしているのでしょう。