第21回

老化撲滅大作戦<その2> 更年期における内分泌の変化と皮膚症状について



以前、ある雑誌の取材依頼がありました。
それは40歳を過ぎてから紫外線対策や美白ケアをしているのに、ここ数年で妙に肌が黒ずんでくるという大勢の読者の声が届いており、これはどうしてでしょうかというものでした。

私は皮膚科医として非常に興味を持ち、いろいろと調べてみました。
その結果40歳を過ぎてから、女性の体内で劇的に変化するものがあることがわかりました。
そうです、エストロゲンをはじめとするホルモンの分泌が変化するのです。
閉経が近くなるにつれて、エストロゲンの分泌量の減少が起こり、月経不順、顔のほてり、いらいらなどいろいろな症状がおこることは良く知られています。
この時に皮膚にはどのような症状がおこるのでしょうか?

まずエストロゲンの皮膚に対する作用は
1)皮膚含水量の増加
2)コラーゲンやエラスチンの合成の促進
3)ヒアルロン酸の合成の促進
が知られています。

コラーゲンやヒアルロン酸は皮膚のしなやかさや水分の保持に大事な働きをしています。
良く女性が恋をすると綺麗になるといわれていますがその原因のひとつとしてエストロゲンの分泌の増加が挙げられます。
また化粧品にも最近エストロゲン作用を有する生薬を配合するものがあります。
また実際にエストロゲンを含む外用剤を使用することにより皮膚のキメやハリ、タルミが回復したという報告がありますが、実際にエストロゲンを含有する外用剤は医師の監督の下で使用するものでしょう。
顔全体ならともかく全身に使用したりすると不正出血を引き起こすことも報告されています。
さて、このエストロゲンが減少すると当然皮膚は乾燥しバリヤ機能も低下し、カユミ、チクチク感を引き起こします。
またコラーゲン、ヒアルロンの減少により、タルミ、しわも促進してきます。
エストロゲンのレベルは常に脳、特に視床下部により監視されています。
更年期になると視床下部はエストロゲンの減少をくい止めるために、脳下垂体を介してより多くの卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体化ホルモン(LH)を分泌してなんとかエストロゲンレベルを維持使用とします。
ところがすでに退化を開始している卵胞細胞はFSHとLHにそれほど反応せず、脳の期待を満たすのに十分なエストロゲンを分泌することができません。
しかしながら閉経後の卵巣は閉経後も女性ホルモンのひとつであるエストラヂオールを分泌します。
また閉経後の卵巣は副腎皮質とともにステロイドホルモンであるアンドロステンジオンの産生を継続します。
このホルモンは脂肪組織に輸送され、そこでエストロゲンに変換します。
一生懸命FSHやLHを分泌してもエストロゲンの分泌が増加しないので視床下部は混乱してしまいます。
まためまい、のぼせ、あるいは皮膚の衰えは生体にストレスを生じさせます。
混乱した視床下部に働いたストレスは副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンcorticotropin-releasinghormone(CRH)の分泌の増加を視床下部にもたらします。
CRHは脳下垂体前葉に作用して、そこで副腎皮質刺激ホルモンCRHは脳下垂体前葉に作用して、そこで副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の分泌を促します。
それで副腎皮質由来のエストロゲンを何とか増やそうとするのでしょう。
またCRHは下垂体中葉に作用してメラニン細胞刺激ホルモン(MSH)の分泌をうながしてしまうのです。
このホルモンは文字どうりメラニン産生を刺激するホルモンです。
皮膚にくすみ、シミを生じさせる作用があります。
またACTHの構造の一部はMSHと共通であり、実験レベルで実際にメラニン産生を上昇させることが知られています。
これらの体内のホルモンの流れを図1に示します。
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また更年期世代の方は、今までさんざん紫外線をあびてきた歴史を持っています。
そのため、これ以上紫外線にあたると皮膚癌になるという危険があるのを生体は承知しており、紫外線に対して非常に敏感になっており、一生懸命自然のサンスクリーンであるメラニンを増やして、皮膚癌を防ごうとするわけです。
ですから徹底した紫外線対策が必要です。

できてしまったシミ、くすみには美白剤、ビタミンCのイオン導入、肌質に合わせた穏やかなケミカルピーリング、そしてレーザー治療が有効です。
とくにビタミンCは美白効果だけでなく、皮膚のコラーゲンの合成を盛んにする作用があるのでおすすめできます。
また老化、シワ、タルミ、にきび赤ら顔の原因である活性酸素を消去する作用もあります。
もちろんピーリングは、皮膚の代謝を盛んにしてコラーゲンの合成を盛んにしますが、紫外線に対して敏感になるので紫外線対策が大変重要になります。
またコラーゲンの合成や表皮細胞の代謝を促進するのがビタミンA(レチノール)です。
皮膚の乾燥に対してはヒアルロン酸などを配合した保湿剤が有効です。
よって、更年期の皮膚に対しては、

1)エストロゲンの代わりに皮膚の代謝を促進するビタミンA,C、フルーツ酸(ピーリング)
2)美白剤
3)保湿剤
4)抗止痒剤(かゆみ止め)

が有効です。
それでもなかなか皮膚症状が好転しない場合、あるいは他の更年期症状が激しい場合には婦人科の専門医に指導をうけながら女性ホルモン補充療法を行うべきでしょう。
ホルモン補充療法を受けるには、必ず経験の豊かな婦人科のドクターのもとで行うのがベストでしょう。
生理の前にはニキビができ、体全体もむくみやすく肌も荒れてきます。
これはプロゲステロン(黄体ホルモン)のせいです。
ホルモン補充療法でエストロゲンのみの補充を受けると、常に肌はいい状態を維持できます。
しかしながらかならずプロゲステロンも併用するようにしましょう。
エストロゲンのみのホルモン補充療法では、子宮ガンなどの発生率が飛躍的に増加することが報告されています。
プロゲステロンは発ガン作用を抑える力を持っています。

図2は65歳の女性です。
眼の周りのタルミや色素沈着を何とかしてほしいと来院されました。
私はコラーゲンやエラスチンの合成を促進する高濃度レチノール、そして異なるメカニズムで美白をする2つの美白剤、エステル型のビタミンCそして、油溶性甘草を処方し、毎日4ヶ月間外用をしてもらいました。
ビタミンCや油溶性甘草には老化を促進する活性酸素を消去する作用があります。
また眼の周りは特に乾燥しやすいところですが、油溶性甘草には強力な保湿作用があります。
4ヶ月には眼の周りの色素沈着や小じわはほとんど消失しています(図3)
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これらの外用剤でとれないような頑固なシワやタルミにはどう対処したらいいのでしょうか?
これについては老化撲滅作戦その3で解説します。