第11回

シミの原因になるメラニンってどのようにして作られるの?



どこまでも青い空、光り輝く海、頬をなぜるやさしい潮風、そして肌を暖める日差し、人生の喜びを感じる一瞬ですね。
しかしちょっと待ってください。
実はその瞬間、あなたの肌には確実にシミが生まれようとしているのです。
皮膚の色調はその厚さや、血管の太さなどによって決まります。
活性酸素が皮膚に炎症を起こして赤ら顔で毛穴の開いた脂漏出性皮膚炎やニキビをおこすことは、ニキビの項で説明しました。
実はもうひとつ皮膚の色調を決定する大事な因子があります。
それがメラニンです。

このメラニンがホンの少し増えた状態がくすみで、大量に増加した状態がシミです。
このメラニンはコスメティックな面からはシミやくすみの原因として、美容の大敵となっていますが、実は我々が生きていく上でなくてはならない大事な役割をいくつか持っています。
それは第1に発ガン作用を持ち有害な紫外線を吸収することによって、生体にダメージを与えることを防ぐサンスクリーン作用、第2に活性酸素を取り込んで無毒化するという作用です。
メラニンの第1の作用についてはよく知られていますが第2の作用についてはあまり良く知られていません。
活性酸素とは酸素に由来する、他の物質を極めて酸化しやすい物質の総称と定義されています。
良くわかりにくい定義ですが、周囲の物質を錆び付かせてダメージを与える物質と考えてください。
酸素呼吸を行う我々の体の中では常に活性酸素が生じています。
活性酸素は外から体の中に入り込んできた、細菌やウィルスをやっつけるためになくてはならないものです。

しかしながらこの活性酸素が多すぎますと、いろいろな病気や老化を引き起こしてしまいます。
活性酸素が遺伝子を傷つけるとガンが起こります。また内臓や皮膚の老化には活性酸素が大きく関与しています。
たとえば活性酸素はコラーゲン(膠原繊維)、エラスチン(弾性繊維)などの皮膚の繊維にダメージを与えて、タルミやシワを生じてしまいます。
また化粧品がついた皮膚を活性酸素が攻撃する状態が化粧品かぶれであり、ハウスダストやダニがついた皮膚を活性酸素がやっつけるのがアトピー性皮膚炎となります。
このようにシミをはじめとして、シワ、タルミ、脂漏出性皮膚炎、ニキビ、アトピー性皮膚炎などほとんどの肌トラブルに関与しているのが活性酸素というわけです。
ですから美容の面からは眼のかたきにされているメラニンですが、実は医学的立場からメラニンを眺めると、サンスクリーン作用を持ち紫外線を吸収し、生じてしまった活性酸素を無毒化するという皮膚を健康に保つために、非常に大切な働きを果たしているのがメラニンということになります。
ですからシミはこれ以上紫外線にあたるとガンになりますよというサインになるわけですね。

肝斑というシミの方の組織は表皮のメラニンが増加しています。
メラニンは表皮という皮膚の浅いところで作られるのですが、より深い真皮の部分にもメラニンが落下しています。
紫外線は皮膚に活性酸素を生じることは良く知られている事実です。
ですからこの現象は、真皮に生じた活性酸素を取り込んで無毒化するために起こっている現象と私は推測しています。
表皮のメラニンはやがて表皮の上のほうに上がっていき、角層と共に垢になって脱落します。
しかしながらメラニンが真皮に落っこちてしまいますと、アートメイクで注入した色素と同じようになかなか消えることはありません。
場合によっては美白剤を一生懸命塗っても、何メラニンということになります。
ですからシミはこれ以上紫外線にあたるとガンになりますよというサインになるわけですね。
そして化粧品かぶれやニキビのあとで、皮膚のメラニンが増加してシミになるのは、そこにある活性酸素を消去しようとしためなのです。
年も残るような、頑固なシミになってしまいます。
このメラニンの落下現象は、水泡を作るようなやけど状態の日焼け、化粧品かぶれ、ニキビなど活性酸素が大量に生じる皮膚の病気でしばしば観察されます。

ここで大きな疑問が生じます。
このように生体にとって大事な役割を果たすメラニンを減らしてしまうのが美白です。
美白剤を使用することは生体にとって害にならないのでしょうか?答えは美白をしても大丈夫です。
私は大学や米国立保健衛生研究所(NIH))にてメラニンがどのような仕組みで作られるのかを研究してきました。
メラニンを作る酵素は、チロジナーゼという酵素が主役をするということは以前より判明していました。
私が留学したNIHの細胞生化学研究室ではチロジナーゼ関連蛋白1,2という新しい酵素群を発見しました。
そしてチロジナーゼがメラニンの量を、チロジナーゼ関連蛋白1,2という酵素がメラニンの質に関与していることを明らかにしました。
これらのメラニン産生に関与する酵素は平常状態では、ごく一部分しか働いておらず、大部分の酵素は休眠状態になっていることを私は実験で明らかにしました。
メラニンを作っている活性型の酵素では活性部位にチロシンというアミノ酸が接触することによって、メラニンの産生が起こっています。
しかしながら休眠状態の酵素では、活性部位は生体由来の物質によってカバーされています。
美白剤はその作用を発揮するためには活性部位に接触することが必要です。
活性型の酵素では活性部位が露出しているので、美白剤が酵素に接触、接続してその作用を抑え込んでしまいます。
その結果美白作用が発揮されるわけです。
しかしながら休眠状態の酵素では活性部位は生体由来の物質によってカバーされているために、美白剤が酵素に接触することはできません。

そして美白剤を使用して3/4部位は生体由来の物質によってカバーされているために、美白剤が酵素に接触することはできません。
そして美白剤を使用していた方が、実際に海や山に行って日光にあたると何が起こるのでしょうか?
活性部位に接触していた美白剤はメラニン産生を抑えますが、このように美白剤が酵素に接触、接続していた酵素は全体の約10%くらいしかありません。
残りの約90%の休眠状態にあった大部分の酵素は、活性部位をカバーしていた生体由来の抑制因子がはずれ、あっという間に活性型の酵素に変換し、どんどんメラニンを作るようになります。
ですから美白剤を使用しても大丈夫です。
皮膚ガンになることはありません。
なぜなら現在、日本で認可されている美白剤はメラニンを作る酵素の合成や活性は抑えるけれども、メラニンを作るメラノサイトという細胞は破壊しないという条件をクリアしているからです。
ですから美白剤の使用の際には必ずしなくてはいけないことがあります。
それは徹底した紫外線対策です。
数ヶ月の美白効果も数時間の日光浴でパーになってしまうのですから。
メラニンはメラノサイトで産生されてから、表皮に石垣のようにびっしりと存在するケラチノサイト(表皮角化細胞)という細胞に取り込まれます。
そしてやがて垢となって脱落します。
一度作られたメラニンが完全に排出されるには数ヶ月かかります。
夏、日焼けした水着のラインが冬になっても消えないのはそのためです。
メラニンは生きているケラチノサイトの内部に存在します。
ですからこの細胞にダメージを与えずにメラニンだけを除去するのは不可能です。
メラニンの産生を抑えながら、脱落を待つ必要があります。ですから美白剤で美白効果を期待するには、十分量(1ヶ月に30グラムくらいです)の美白剤を十分期間(少なくとも数ヶ月)使用することが大切です。
ケチって美白剤を使用してはダメです。
可能なら1日に2回と言わず3回以上浴びるほど外用してください。
外用後にラップやマスクを使用することで吸収量をアップすることも可能です。
以上のことをお読みになった皆さんは、シミができてしまった夏だけでなく1年を通じて、紫外線対策と、美白剤を使用するようにしてください。
冬でも波長の長いUVAは、夏の約半分の量が地表に到達しています。
また冬の間も美白をすることで、すべすべの白い肌で夏を迎えることが可能になります。