第27回

なぜ20代後半から40代にかけて毛穴がひらくのでしょう?(1/6)~イライラがあなたの皮脂腺を大きくする~



男性と女性の肌の一番の違いは皮脂の分泌の量です。

男性はもともと男性ホルモンが多い種族です。
これは大昔から、寒い戸外で狩りなど活動的なことをしてきたことに対応した結果です。
皮脂の分泌は男性では40代から50代になってやっと低下してきます。
一方女性は今までは20代の前半が皮脂分泌のピークでその後はどんどん皮脂の分泌が低下するといわれてきました。
このことは“ストレスとホルモンと皮膚症状"の項ですでに述べました。
その通りであれば皮脂の分泌能が低下する20代後半からニキビで悩む女性は激減するはずです。
しかしながら20代後半になって、昔よりニキビがひどくなった、30代から40代になって初めてニキビができて、毛穴が開いてきたと青山ヒフ科クリニックを受診する方が増えています。

これはいったいどういうわけなのでしょう?
皮脂の分泌を増やす男性ホルモンが女性ではどうなっているのか、詳しく調べてみました。
その結果、非常に興味深い事実がわかりました。
男性では、男性ホルモンであるテストステロンは睾丸で作られます。
一方女性ではテストステロンは卵巣で作られますが、そのレベルは男性の約10分の1しかありません。
テストステロンが皮脂腺の細胞内に入ると、5アルファリダクターゼという酵素の作用によりジヒドロテストステロン(DHT)という非常の活性の強いホルモンに変換します。

DHTは皮脂腺のホルモンの受容体に結合して皮脂の分泌を促進します。
睾丸や卵巣だけでなく、副腎からもデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)という男性ホルモンが、男性でも女性でも分泌されます。
DHEAは女性でも男性同様に大量に分泌されます。
DHEAが皮脂腺の細胞内に入ると、テストステロン同様に5アルファリダクターゼの作用により、活性型の男性ホルモンDHTに変換され、皮脂の分泌を促すのです。
DHEAの分泌レベルは男性では21歳から25歳をピークとする一峰性です。
しかしながら女性では16歳から20歳に最初のピークがあってその後、20代でいったん低下して、30代から40代にかけて再び上昇して第二のピークを形成する二峰性を描きます(図1,2)
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内分泌の本を見てもなぜこのように30代から40代にかけて第二のピークを形成するのかは不明でした。
しかしながら、私はここでひらめきました。
以前更年期におけるホルモンのバランスを、調べていたときに発見した事実です。
それは更年期になると卵巣におけるエストロゲンのレベルが低下して、それが非常に強いストレスとなるという事実です。
そして、低下した卵巣のエストロゲンレベルを補うために卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体化ホルモン(LH)というホルモンが分泌されますが、卵巣はそれに反応しなくなります。

そこで副腎由来のエストロゲンを増加させようとして、コルチゾールが増加します。
しかしながら実際には副腎由来のエストロゲンはほとんど増加せず、副腎由来の男性ホルモンであるDHEAが分泌されてしまうのです(図3)
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コルチゾールは長く分泌されるとコラーゲンやエラスチンの合成を抑え老化を促進します。
また同時に分泌されるアドレナリンとDHEAなどの協調作用によりますます毛穴は開いていくのです。
この図は“ストレスと皮膚症状について"解説した図1と全くおなじなのです。
そして最近はバリバリ働いている20代から30代の女性で更年期とそして最近はバリバリ働いている20代から30代の女性で更年期と同じ症状が起こることが報告されています。
これは仕事という大きなストレスがエストロゲンのレベルを低下させてしまうためです。
その結果、本来なら30代後半から起こるDHEAの第二のピークが20代後半で出現してしまうのでしょう。
20代の後半から生理が狂ってきたり、毛穴が開いてきたり、シワ、たるみが出てきたら要注意です。
ストレスを減らす工夫をしてみましょう。
それでも体調がおかしいようであれば、婦人科や神経内科を受診することが必要です。
最近は、イライラがホルモンを介してだけでなく、神経を介して皮脂の分泌を促進するということがわかりました。
イライラにより交感神経が緊張すると、アドレナリンやノルアドレナリンが神経より分泌され皮脂の分泌を促進するということはよく知られた事実です。
ニキビのない正常な方の皮脂腺は小さく、神経から離れて存在しています。
一方ニキビがある人の皮脂腺は増大しています。
そして肥大した皮脂腺の周囲を神経がとり囲むように存在しているのです。
最近、ストレスがあると神経の末端よりサブスタンスP(SP)という神経ペプチド(アミノ酸が10数個結合したもの)が分泌されることが明らかになりました。
ヒトの皮脂腺にSPを加えて培養すると、皮脂腺が増大し、皮脂の分泌が増加することが明らかとなりました。
もちろんアドレナリン、ノルアドレナリン、コルチゾール、アンドロゲンなどのホルモンも培養皮脂腺の皮脂の分泌を増加することが判明しています。
そしてこれらのホルモンにより皮脂の分泌が増加した皮脂腺にSPを加えると、さらに皮脂の分泌が増加することが判明しました。
またニキビがあるヒトの皮脂腺の周囲には本来なら外から侵入してきた、細菌などの悪いものをやっつける作用を持つ、リンパ球の一種である肥満細胞がたくさん存在しています。
この肥満細胞にSPを加えると、ヒスタミンというかゆみを起こす物質が放出されます。
ニキビや赤ら顔が痒くなるのは、実はこのヒスタミンのせいなのです。
そして、カユミを生じているニキビや赤ら顔の方では強いストレスを自覚している方がほとんどです。
これは強いストレスにより、カユミをおこすSPがたくさん放出されているためなのでしょう。
またSPにより肥満細胞はカユミをおこすヒスタミン以外にインターロイキン6(IL6)という物質を放出します。
このインターロイキン6は皮脂腺に作用して神経成長因子(NGF)の産生を促進します。

この物質は神経の発育を促進する作用があります。
その結果、皮脂腺周囲の神経はますます皮脂腺周囲に寄ってくるようになります。
また真皮に存在してコラーゲンやエラスチンを作る繊維芽細胞は幹細胞因子(stemcellfactor,SCF)を産生していますが、ニキビの方ではこの幹細胞因子の産生が増大しています。
実はこの幹細胞因子は肥満細胞の分化、増殖を盛んにして活性化する作用があるのです。
これらの新しい事実を整理しましょう(図4)
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すなわちストレス、イライラにより神経はSPという皮脂腺を活性化させる物質を産生します。
また肥満細胞により産生されたIL6は皮脂腺にNGFを産生させ、よりたくさんの神経が皮脂腺周囲に集まるようにします。
その結果、ちょっとしたストレス、イライラで皮脂の分泌が簡単に増大するようになります。
これは寒冷などの外的刺激に対して、生体の防衛反応が亢進するという点ではまことにまことに合理的な反応です。
しかしながら、肥大して活性化しやすい皮脂腺は、ちょっとした刺激でニキビがすぐできやすくなるという非常に困った結果を生じてしまいます。
そしてニキビを生じることが余計ストレスとなって、SPだけではなく、アドレナリン、ノルアドレラニン、コルチゾール、副腎由来の男性ホルモンであるアンドロゲンなどの分泌がより増大するのです。

ですからこれらの結果をまとめると、女性の副腎由来の男性ホルモンの分泌が二峰性になるというのは、

1)卵巣由来のエストロゲンが低下するということ
2)イライラしたストレスの日々を過ごすこと

という2つの事実の結果ということになります。

また皮脂の分泌を促す、アドレナリン、ノルアドレナリンとコルチゾールの血液中の濃度には正の相関関係があることが報告されています。
すなわち、皮脂の分泌を促すホルモンのレベルがどれかひとつでも高いと、ほかの皮脂の分泌を促すホルモンのレベルも高いということになるのです。
このような事実より、日々のストレスを低下させるかということが、肌の健康を維持するためにとても大切であるということがわかります。
このように述べると、ストレスは非常に悪いものというイメージを持つことでしょう。
実は、ある程度のストレスは、我々にとって必要なものなのです。
私は、休暇中は何もしないで過ごすという話をしました。
その結果、数日もすると顔が弛緩してきます。
家族にも顔がだれてきたと言われます。
そんなとき、鏡を見ると、ダラーとしたしまりのない自分がいます。
顔をシャキっと引き締めようとしてもできないのです。
頭の中もボーっとしてきます。
以前は休暇が終わって、仕事に戻るのが非常に苦痛でした。
しかしながら最近は、休暇が長くなるにつれて、逆にメリハリのある生活に戻りたいと思うようになりました。
そうです、患者さんとの診察や対話を楽しむ余裕が生じるようになってきたのです。

セリエは、ストレスには非常に不快なものと、快適なものがあるとしています。

そして快適なストレスは人生のスパイスであると述べています。
私は休みの日にこの原稿を書いています。
もちろん原稿を書くことよりも楽しいことはたくさんあります。
でも、今私は楽しみながらこの原稿を書いています。
当初は原稿を書くことは非常に苦痛でした。不思議なことに、心の中にあるものを文章として表現するという訓練を繰り返すうちに、書くことを楽しみに感じるようになってきたのです。
なかなか克服できないストレスもあると思います。
でもそのストレスのなかに喜びを見出す努力をすること。
たとえば、会社でほかのヒトに認められるよう努力すること、そしてその努力が認められた時には、会社で過ごす時間がある程度快く感じることでしょう。
また本当につらいストレスがあるからこそ、ストレスフリーの時間のありがたさが実感できるのでしょう。